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そばにいて、そしてキスをして

第3章 始まり

その言葉が終わるか終わらないかのところで真緒の記憶は途切れていた。自分のした行動に驚いて失神した、とも言う。
次に目が覚めたのは、午前5時だった。倉沢のベッドだった。閉めたカーテンの隙間から光が射し込んでいた。真緒は人の気配を感じて隣に顔を向けると、そこには倉沢が、昨夜の服のままきもちよさそうに寝息を立てていた。
上半身を起こして、その寝顔を見下ろすと、長い睫毛が下向きに影をつくり、かたちのいい唇がうすく開いている。

その時ふと、キスをしてみたくなった。

昨夜は酔っていたとは言え、倉沢の背中は色気がありすぎた。でも、目の前の唇はもっと、真緒を誘う何かがある。

……ちゅっ……

起こした体をかがめて、真緒は倉沢にキスをした。
真緒は、倉沢を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、リビングに出た。テーブルの上はきれいに片付けられて、一枚の紙が置かれていた。

『昨夜は本当に楽しかった。ありがとう。これを読んでいるということは、先に目覚めて帰ろうとしているということですね。無事に帰りついたか心配なので、連絡して下さい。090―xxx―xxxx』

真緒はその手紙をバッグにしまい、玄関のドアを開けた。
午前5時の空気はひんやりとしている。ふいに倉沢の背中の温もりがよみがえってきた。
自分のマンションの部屋に着くと、再びそのままベッドに倒れこみ、今に至るというわけだ。

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