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そばにいて、そしてキスをして

第5章 そばにいて

「……んっ……」

呼吸をするのも忘れるくらい、真緒は倉沢とのキスに夢中になっていた。
倉沢の右手は真緒の背中に回され、ヘッドレストに添えられていた大きな手は、いつの間にか真緒の髪を撫でていた。
雨は勢いをなくし、雲の切れ間が見え始めていた。

「倉沢さん、私……」

付き合っている人がいるんです、と言いかけて真緒はやめた。そんなことを言って何の意味があるというの?
真緒には松田という研究一筋の恋人がいて、例えば倉沢には誰もが振り返る美しいパートナーがいたとしても。
それが、どうしたと言うのだ。
真緒は倉沢に脳内を占拠されていて、心まで侵入を許すのも時間の問題だ。倉沢は確かに、彼自身から真緒を抱きしめて、その唇と唇を重ねた。

そのことに、何の言い訳が必要なの?
いま。
私はあなたを必要としている。
でも明日になれば、違うかもしれない。
だから、いま。

「……真緒さん、あなたをもっと抱きしめていたい」

倉沢はそう言って真緒から離れ、シートベルトもせずに車を発進させた。

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