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そばにいて、そしてキスをして

第5章 そばにいて

まだ見慣れぬ倉沢の顔が、迷いに歪んでいた。右手でハンドルを切り、左手は痛いほど真緒の手を握っている。

たぶん。
随分長い間、この人はこんな表情をしていたんじゃないかな。
笑顔がぎこちない。
照れ笑いが似合わない。
楽しそうにしていても、ふと真顔に戻ってしまう。
だから、この表情が一番しっくり来る。
それはとても悲しいことだけど。
きっといま、一生懸命前を向いて歩こうとしている、そんな風に見える。

車は、倉沢の住むマンションの地下駐車場に入った。
所定の位置に車を停めると、さっきと同じように助手席にまわり、ドアを開けた。
真緒は黙ったまま、倉沢を見上げた。
倉沢は表情を変えずに真緒を見ている。
有無を言わさぬ目の力に思わず真緒は視線を外した。

……子どもじゃあるまいし。

真緒は車を降りた。体がドアに押し付けられ、再び倉沢の唇が重なった。
心を捉えて、離してくれない。
違う。
真緒も、離れたくないのだ。
倉沢は電動キーで車をロックし、歩き出した。

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