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そばにいて、そしてキスをして

第6章 心が緩む場所

「よし。終わり」
「ありがとうございます……」
「髪が……」
「え?」
「すごく傷んでる。ほら」

束ねていた髪をほどいて、そのままにしていた。倉沢はその毛先を持ち上げて可哀想に、とつぶやいた。

「切ってあげようか?」

小さな子どもを諭すように、真緒の向かいに座って下から見上げた。
その目は優しさに溢れ、思わず吸い込まれそうになった。

「倉沢さん……」
「お腹空いてませんか?何か作りますよ。ほら」

そう言ってスーパーのバッグを指した。
真緒がシャワーを浴びている間に買い物まで済ませていたようだった。
真緒の返事を聞かず、倉沢はキッチンに立ち食事の用意を始めた。

「これ、飲んで待ってて」

ぽってりしたマグカップに注がれた温かなカフェオレ。手で包むと、じんわりと気持ちまで落ち着いてきた。

……甘い。ひとくち飲むと、オーバーヒート気味の脳みそが、ゆっくりほぐされていくようだ。
ここ1週間近く、松田のことと仕事のことで頭がいっぱいで、睡眠不足が続いていた。

……ダメだ、気を抜いたら……眠ってしまいそう……

真緒はいつの間にかダイニングテーブルに突っ伏して眠っていた。

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