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そばにいて、そしてキスをして

第7章 私じゃなくて

「真緒さーん。生きてますかー?」

洋輔の声だった。ドアスコープを覗くと食材の入ったスーパーのバッグをぶら下げている。

「…大丈夫って言ったじゃん」

真緒がわざと不機嫌そうに言ってドアを開けると、肩をすぼめて許可もなく部屋にあがりこんだ。
言わなくてもわかっている。松田に頼まれて真緒の様子を見に来たのだ。

「大丈夫そうっすね。これ、差し入れ」

洋輔はダイニングテーブルに袋の中身を出しながら言った。全部、真緒の好きなものばかりだ。

「ねぇ、芹澤千帆って知ってる?」

テーブルに出された、きのこの形をしたチョコレート菓子の箱を開けながら真緒は聞いた。

「真緒さん、倉沢貴司にどっぷりなんじゃないですか?」

洋輔は、これオレの、と言って3個つながった安っぽいゼリーをひとつ、パキンと外した。

「芹澤千帆と倉沢貴司は、史上最高のコンビって呼ばれてたんですよ」
「史上最高のコンビ?」
「あの二人が共演すれば必ず満員」
「へー」
「亡くなって2年、ですよね」

毒々しい赤い色のゼリーを口に入れ、いちごだ、と言ってまた食べた。

「真緒さん、そっくり」

洋輔の視線は、真緒の髪のあたりに向けられていた。

「言ってなかったことがあるんです」

残りのゼリーを飲むようにして食べ、次は紫色のを開けようとしている。

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