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そばにいて、そしてキスをして

第8章 それぞれの決断

刺すような日射しが、半袖から出た腕を容赦なく灼きつける。
梅雨は曖昧なまま過ぎ去り、空は一気に夏色に変わった。積乱雲が高々とその空に伸び、真緒の気持ちとは正反対にコントラストを生み出していた。
何も考えず、ただ黙々と走り続ける。走っている間は自分の呼吸だけが聞こえた。
いつか、同じようにランニングする倉沢に出会った場所はもうすぐだ。でも、倉沢は現れない。真緒も、その足を止めることはない。

店を譲った。
仕事もやめた。
松田とも別れた。
洋輔から連絡はない。
倉沢は仕事で海外にいる。

真緒はここ数日、誰とも話していない。
でも、話さなくても生きていけるのだ。
慣れてしまえば大丈夫だった。

…本当に必要なものは何だろう。

わかっているのに、どうして認めたくないのだろう。

だって、彼が求めているのは私じゃない。私に似た「彼女」だから。

それでも。

それでも、彼のそばにいたいと思うのはどうしてだろう。
初めて彼に抱かれた日、私は心に空いた穴が埋まっていくのを感じた。そばにいてほしいと強く願った。そして、彼も同じように思っていたに違いないと確信したから。

身代わりでもいい。
そばにいたい。抱きしめてほしい。キスしてほしい。

真緒は、強く、強く願った。

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