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アクマにアソコを貸しました

第6章 ロスタイム上等じゃないですか

「梓穏」

背中越しに聞こえたケィシの声は心なしか真剣だった。

「俺たち…特に真赭は再生に力をほとんど使って空っぽ状態だ。これで魔界に帰っても狩られるだけだ。だから、もう少し回復するまでこっちにいる。そこで――」

言葉が途切れたのは躊躇っているからだろうか。

「お前はどう思う?」

…どう、とは?

「今すぐ記憶を消して、処女膜を再生させる事は難しくない。……梓穏がそれを望むなら」


ケィシのいつも通りの平坦な声。だけど微かに緊張しているのを感じる。


何て言えばいいのだろう。

「わかった。約束だからな、消そう」
私の沈黙をどう受け取ったのかは明白だった。

「消してどうするの?まだこっちにいるなら住むところがいるでしょう?」

「…引っ越すさ。世の中、空いている部屋なら沢山ある。それに仕事も辞める時に周りの人間の記憶の辻褄を合わせて繋げて、適当な会社に勝手に入る。入った先でも同じ事をすればいいだけだ」

俺は一人で数十年間、還るかどうかもわからない弟を胸にその方法を繰り返して過ごして来たんだ。


今初めて聞いてるよ、記憶を消したいか、と。


独り言のようにそう告白してフッと漏らした吐息の意味は解らなかった。

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