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G線上のアリア

第3章 学校

「………大変だねぇ…」
何が大変なのか、自分でもよく分からないまま夢叶が呟き、空になった弁当箱を見た。

《絶対、お母さん……誤解するよね…》

思わず内心で汗がたらりと流れてしまう夢叶。その予感は正しく、翌日には「やっぱり男の子だものね!これぐらいは食べなきゃ!!」と、何を勘違いしているのか、母静香が一回りでかい弁当箱を用意されることとなるのだが、今は預かり知らぬ夢叶であった。
食事をやや不正で済ませた夢叶は、そのまま図書室の本をじっくりと観察とした。最近は歴史などのジャンルも進んで読んでいるのだが………もう少しだけ古いジャンルを攻めてみようと、立ち止まった書棚には和歌集が並んでいる。
「情緒とかもいいかも……」
さりげなく手をとったのは、国語の教科書というか古典で習いそうな万葉集であった。
日本最古の和歌集であり、全20巻あり全部で四千五百首ある。時代も古く奈良時代の後期に大伴家持が作った言われているのだが、歌自体は更に古く…古墳時代から奈良時代にわたる四百年の想いがしたためられた和歌であり。農民から天皇までの幅広い想いが込められている。

「……読んでみるかな…」

ずっしりとした重さを感じる。その重みは人の想いとしての重みかなって思った夢叶だった。

戻ってくると視線で夢叶を見つけた朔夜が、僅かに不機嫌そうに見てきた。その反応にきょとんとしながらも、始業のチャイムが鳴り響き―――午後の授業は再開された。

授業自体は昼食後のダルさを感じながら、視界を広げるように前を見てノートをとっていく。夢叶の勘ではこの辺りは中間に出るだろうと予測した上であった。夢叶はこと勘に関しては自信がある。小テストなんかも外すことは稀であり、結構試験の前だけは人だかりが出来たりもする。
《でも…ちょっとだけ眠たいかもー》
うつうつとしかける頭が揺ら揺らと揺れているのが自分でも分かる。
時計を見ると終了まで、あと五分足りずだ。授業が終われば、今週は掃除当番もない。
上手くいけば、朔夜と帰れるか。学校を案内出来ると自分を叱咤激励して、どうにかその五分をやり過ごした。
「ここまで!今日の辺りは中間に出すぞ!しっかりノートをとってる奴はラッキーだぞ」

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