G線上のアリア
第5章 懐かしい思い出
「うわッ!!」
素直に驚いて、そのまま椅子を滑り落ちそうになった夢叶の腕を慌てて摑む。
「どうした?えらく明後日に飛んでるけど…」
椅子から半分、身を落とした夢叶が肩で息をしながら心臓を押さえていた。どうやら本当に驚かせたらしい。
「大丈夫か?ごめん…」
「あ…ううん、いいよ。僕がちょっと散漫だっただけ」
何かに一瞬触れたと思った。立ち上がろうとした所で再び、夢叶の動きが止まった。
「あーーーーっ!!」
「何!?どうしたんだよ!?」
いきなり大きな声を出す夢叶に、思わずびっくりした朔夜が問いかけると、また動きが止まった。これは自分の思考を怪しんでいるらしい。ジッとしたまま微動だにしなくなってしまった夢叶を見て、朔夜はまた深い溜息をついた。
何かが小骨が喉につっかえた感触が拭えなくて―――何かを思い出しかけたのだ。
「あっ!!」
どうしたのかと見ていた朔夜の腕を、夢叶がしっかりと摑む。
「帰ろう!」
「は?!」
そう言うと飲みかけていたお茶の蓋を閉じてから、鞄を引っつかみながら、朔夜の腕を取って出入り口へと向かった。
「あ…おいっ…!?」
思わずこけそうになるものの、元よりの運動神経に朔夜が身を立て直すと、意思の強い瞳がまっすぐ前に向かい急ぎ足で家路へと辿っていった。訳が分からず連れて行かれる朔夜だったが、とりあえずはこの状態の夢叶には言っても聞こえてなさそうだと溜息の裏で苦笑し、連れて行かれるがままに従った。
「ただいま!」
「お帰りなさいー」
のほほんとした静香の返事に恒例の儀式(儀式?)を終えた夢叶は、そのまま自室へと急ぎ足で駆けていく。
「………ねぇ、夢叶くんは何を急いでいるか、知ってる?」
階段を見上げたまま問いかける静香に、朔夜は鞄を下ろして頭を軽くかいて答えた。
「ってか、急に………とりあえず見てこようか?」
「頼んでいい?」
小首を傾げて聞く静香に、朔夜は二つ返事を返すと軽快な足取りで階段を上っていく。そんな朔夜を見送ると暫くは階段の上を見ていた静香だったが、台所からコンロに水気が跳ねる音が立ったので、仕方なく後ろ髪引かれつつも台所へと戻っていった。
「夢叶?」
ノックを一回鳴らすが応答は来ず、朔夜がノブに手をかけて回した。ゆっくりと開いた先には、夢叶が本棚の奥を漁っている姿。