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G線上のアリア

第5章 懐かしい思い出

「夢叶?」
もう一度声を掛けて見たが、気がついてないのか………散らばった写真と、ネガ。それから小学校と中学校の卒業アルバムがあった。
「………見るぞ?断ったからな…」
そう言いながら開いたアルバムには、小学校の風景と職員の写真があった。
一枚、一枚と捲っていくと沢山の生徒が写っているものがあり、続いてクラスごとの写真に変わる。じっくりと夢叶を探す。それは案外すぐに見つかった。
小さく周囲から距離をとり、ひとりぽつんと写っているばかりで、クラスメイトに囲まれていても、落ち着かない―――顔を明らかに引きつらせている。どの写真も周囲に当たり障りはないのに、一歩を確実に引いた写真ばかりだ。
色々と写真を探りながら、何かを一生懸命見つけようとしている姿。細い項を今は軽く興奮しているのか、薄紅染まっている。少し長めの濃い茶色の髪をうっとしげにかきあげながら、一枚の写真を手にとって確かめている。………嬉しそう、という表現が一番似合った姿に、朔夜は思わず自分へと意識を戻そうと、その白い腕が微かに袖から見える手を引き寄せた。

「うあっ…」

それほど力を込めて引っ張ったつもりはなかったのに、夢叶の身体は簡単に引き寄せたばかりか、朔夜の意外と逞しい両腕に身体が収まった。
「………な、なに…?」
顔の表情筋が硬直したように動かないのを、夢叶は意識せずとも分かるが、あえて素直にそのまま問いかけてみた。

「―――俺が女駄目だって、言ったこと覚えているか?」
まっすぐに見下ろした先で、逆さまになったまま顔を上げた夢叶の瞳を射る。光が闇を貫く毅さで、朔夜は夢叶を睨む。吐かれた言葉に夢叶は身を強張らせ、それから解かれ腕を摩り、朔夜の正面に座ってジッと視線を捕らえて頷いた。
「聞いたよ。僕は誰にもソレは言わない…」

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