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G線上のアリア

第6章 本当に怖いこと

「僕は………初恋も男で…自分がゲイであることを認識している。僕は僕がゲイであるということを誰にも……両親には知って欲しくないんだ。保身が大切な僕は、人に嫌われるのがたまらなく怖い………人に後ろ指を指されるのが、怖くて堪らないのに―――」
握りこんだ拳がズボンに強い皺を刻んだ。小刻みな震えは大きな震えにとって代わり、見た表情もはっきりと青ざめていた。
「そうか………」
落胆を若干含んだ声が沈寂に響く。夢叶の胸を深く抉ったが、嘘も偽りもない真実が夢叶に絡み付いている限り、動けない身体が此処にある。朔夜は溜息で自分の気持ちを吐き出し、夢叶をまっすぐに見た。
反らしたままある眼差しを、自分の方へ向けたくて朔夜が頬に触れると微かだが緊張し、強張った顔を向けてくれた。

「俺は別にゲイだってことを恥じてない。女はどうやったって吐き気がくる。俺はとてもじゃないが女は愛せない。むしろ恐ろしい未知な生き物だと思っている。―――夢叶は俺がいい?いらない?口に出して答えるのが怖いなら、俺の身体のどこか一部を掴んでくれ…」

優しく耳朶に届く声は、精一杯の優しさがあった。
夢叶は迷いもなく、ただ頬を持たれている腕を震えた冷たい指先で握り締めるのがやっとだった。
通いあう気持ちを前に、暗澹とした重さが思考を覆い隠し、口ではっきり言えるほど強くないのに想いだけは毅く胸を焦がしていた。
夢叶の頬を伝う涙が、証になると思える。声を出さずに泣く夢叶の頭を抱え込み、そっと抱き寄せて背中を撫でた。

想いが通じる恐ろしさは、人に怯え自分に怯えるだけの自身にしか通じない。世の中にはそんな自分を曝け出して、太陽に顔を向けて歩いている人も居るのに。―――どうしても怖いんだ。
必死で繋いだ言葉は、どれほどの拒絶を持って朔夜の耳に届いているだろう。夢叶はそう思うと顔を上げるのも恐ろしくて仕方なかった。

「……夢叶は俺が好きか?」

答えにならない渇きが喉を襲い掛かる。彼の心は欲しいが、答えてしまえば自分がどう変わってしまうかは分からない。それが恐ろしくて何も言葉に出来ない。
夢叶は答える言葉を今手元に持っていない。

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