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G線上のアリア

第6章 本当に怖いこと

「好きか?」
静かに尋ねてくる言葉と、背中を滑る優しい熱に駄目だと叫んだ心が死んでいく。壊れていく日常を思い涙が溢れてくるのに、頷かずには居られなかった。
「朔夜が………好き、だ…よ………」
父親と母親を裏切ってしまう感覚が、全身を駆け巡っていく。それでも言ってしまいたい想いの丈をぶつけてしまい心は虚無に限りなく近い喪失で落ち着いていた。

「追い詰めないから…夢叶を俺は信じるよ」

強く抱きしめられた。
それは思っていたよりも優しく夢叶の恐怖を凪いでいくのを感じる。夢叶は言葉にならない嗚咽を漏らしながら朔夜に縋り暫く―――泣いた。
感情をコントロールすることに慣れているのに。どうしてこれだけ泣いてしまえるのだろう。夢叶は何処か泣きながらも冷静な部分で自己を分析していた。
抱きしめたまま、小声で呟いた朔夜。思わず顔を上げた夢叶に笑顔で言った。

「愛している。俺は夢叶を悲しませないし…夢叶の考えを尊重するから、俺の気持ちを受け入れてくれ」

無理時はしない。触れなくても其処に夢叶が居て、隣に自分が居るのであれば、それでいい。それが望みであり夢であるからと繋げた言葉に夢叶は、ようやく安堵の笑みを見せてくれた。
あどけない幼いと思えるほどの、柔らかい笑みを前に朔夜は包み込み抱きしめた。
「俺は夢叶に受け入れてもらえたと思っていい?」
「………朔夜が好き…」
身体を起こし、いまだ涙を頬が伝わせてまま―――夢叶は朔夜の頬に唇で触れた。

伝う涙の後を唇で伝い、朔夜は両腕にある夢叶を強く抱きしめる。たとえ力が強く、身を捩ろうとも離すつもりはなかった。
「…静香さんが心配していたよ」
耳元に囁くと、夢叶はハッと我に返ったように指先に触った一冊のアルバムを掴んだ。伸ばして引っ掛けて寄せると、ようやく朔夜の抱擁は止み離れた。

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