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G線上のアリア

第2章 家族になろう

「こういう場合は、これで起こすといいですよ?」
廉が持ってきたものを、静香はきょとんと見つめた。それはどうみても―――フライパンとおたま。
「…どうするのですか?」
「ええ、こうするのですよ…私の母が、弟をこうやって起こしていた方法なので確実に目が覚めますよ」
くすくすっと笑いながら、じっと見ている静香の前を横切り、廉は二人の頭元にくるとおもむろに振り上げた。

ゴ~ゥンッ

けたたましい音に、流石の二人も驚くように身に起こす。二人の前には片膝をついて、にっこりと笑う廉が「おはよう」と二人の頬へ唇を寄せた。
「………楽しむなとは言わないけど、風邪ひくよ?」
のんきにおっとりとした廉の言葉に、朔夜と夢叶は互いの顔を見合って笑い出す。
感情を隠そうとしていた朔夜が、夢叶といるようになって、少しづつだが感情を表に出すようになったという安堵を夫妻は互いに瞳を細めて笑むことで教えあった。

夢叶も一人っ子であり、やや内気に育っていたことで、羽目を外す方法というものを知らずにこの年まで育っていた。こうして少年らしい夜更かし方などを知ることが出来て良かったと廉は思う。
友達というより、朔夜は夢叶にとって一番身近な存在なのだろうと思った。

「さぁ、ご飯ですよー」

とってものんきな静香の声に、一同は振り返っていつもの朝食を取るためにダイニングテーブルへと向かった。
朔夜がはじめどうしても慣れなったのは、こういう家族での団欒だ。朝と夜―――この二つは家族で向かい合って食事を採るのだ。一人で適当に支給される冷えたご飯ではない。作りたての暖かいご飯が朔夜の前に置かれた。
「頂きます…」
廉の言葉に一同が続き、食事を開始する。

「今日から学校が始まる訳なんだけど、二人とも時分のペースで頑張りなさい」
色々と会話を進めながらご飯を食べ終えた二人に、廉は優しい声でそう言った。
「「はい」」
二つの声が重なると、廉は満足したように立ち上がり、一足先に家を出るのだ。なんと言っても、廉は学校の教師である。静香と二人朝の「行ってきます」行事で送り出すと、食器を洗いに行く。
二人はそれぞれの食器を持って流しに行くと、慌てて静香が受け取った。

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