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優しいキスをして

第1章 出来心

そんなことを考えながら階段を降りていったが、すでに北澤さんの姿はなかった。さっさっと在庫を車に積んで帰ってしまったのだろう。
あたしは在庫置き場を通り過ぎ、練習の途中だったウィッグの前に立った。すると、ウィッグのすぐ側にストパーの薬剤が2つ置いてあった。
あー、あっちのテーブルに置いたのすっかり忘れてた。また忘れると思ってこっちに置いといてくれたんだ。いいとこあるじゃん♪
あたしは小さく笑った。
あたしは自分のバックに薬剤をしまい、代わりに携帯を取り出し、メールボックスを開いた。
北澤さん宛に、
<お疲れさま(*^^*)薬受け取りました。置いといてくれてありがとう。忘れるとこだった>
と送った。
携帯をおくと、あたしはまた練習を続けた。
アウトラインの長さを確認していると、すぐに携帯が鳴った。メールの着信音だ。
あたしはメールボックスを開いた。
<おう(-.-)Zzz練習頑張れよ>
北澤さんからだった。
珍しいな、すぐメール返すなんて。
てゆーかもう寝るのかよ。はやっ。
あたしはそのあとしばらく集中して練習をした。2回程一通り切り終わるとなかなかいい時間になっていた。
そろそろ帰るか……。
あたしは練習道具を手早く片づけると切り落とした髪をホウキで掃き、一通り見回してから裏口に向かった。
田橋さんまだいるかな。いたら一応声かけた方がいいか。
あたしは階段の前に練習道具を置き、階段を登って行った。
登りきってフロアを覗くと田橋さんは竹井さんと二人でなにやら書き物をしているようだ。
「お疲れさまでーす。まだ帰らないんですか?」
あたしは声をかけながら奥に座っている二人に近づいていく。
「おー、須藤お疲れ。まだいたの?てか、練習してるなんて珍しいね」
竹井さんはちょっとびっくり顔。竹井さんは本店の店長で可愛い顔なのに意外にサバサバしている。やせればモテそうなのになあ……。もったいない。
「そりゃ、あたしだってたまにはしますよぉ。帰る前に一応声かけといた方がいいかなと思って」

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