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優しいキスをして

第1章 出来心

「ご苦労ー。早く帰んな?」
と、横で田橋さん。
「はい、お二人はなにしてるんですか?」
あたしは二人の手元を覗きこんだ。
やばっ!忘れてた。
「明日店長会議でしょー!忘れてたかー!?」
と、笑いながら竹井さん。
「ヤバ……ぁ。マジ忘れてたー」
あたしは思わず額を押さえた。
「うちは明日打ち合わせできないからね。前日からまとめとかないとなの!」
「そうですね……。ご苦労様です」
あたしは明日昼間のうちにやっとくことを考えて頭がいっぱいだ。
「須藤も明日来るでしょ?」
「はい、たぶん。来たくないけど」
また技術向上とか言ってなんか絞られそうだなあ…。
「ま、それはみんな同じだからさー!」
田橋さんにばんばん背中を叩かれる。
痛いいたい。
「須藤……。あんたまた痩せたんじゃない?」
笑ってた田橋さんの顔が急に曇った。あたしの体をジロジロ見る。
「え?そうですかね。あんまり寝てないからかな」
あまり意識してなかった。確かに顔は前より少しほっそりした気はしてたけど。
「あんまりフラフラしてないでちゃんと寝なさいよ?そのうちぶっ倒れるぞ」
竹井さんもさっきと少し顔つきが変わった。
「はーい。じゃあ帰りまーす」
心配されることになれないあたしは居ずらくなってそそくさと歩きだした。
「「お疲れー」」
あたしは階段に向かった。すると後ろで、
「早くまともな彼氏作れよー」
田橋さんが言った。
「できるもんならとっくに作ってますよっ」
「ハハハハハ。そうだなぁ、お疲れさーん」
「お疲れさまでーす」
あたしは階段を降りて自分の荷物を持つと本店の裏口から外に出た。
彼氏かー……。
正直今は欲しくなかった。どうせまた続かない。彼氏と約束してない日に時間があって用もなければあたしは誰かとヤるだろう。
淋しさを埋めるために。
そんなのでいちいち浮気しただ、別れるだとか、めんどくさい。

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