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優しいキスをして

第1章 出来心

それが今からいく店舗の店長。
「お疲れさまでーす」
あたしは裏口のドアを開けてあいさつした。
「お疲れさまー」
いきなり開いたドアに少しびっくり顔の目の前の人がそうだ。背が高くてちょっと甘い印象の顔。顔も整っててカッコいいのに会社内で有名な変わり者。少し前までは会うのが楽しみで堪らなかったあたしだが、今はそうでもなくなってしまった。
「あれ?北澤さんだけ?」
あたしはキョロキョロ周りを見渡した。
「ああ、市村さんは受け付けにいるよ」
「そっか」
あたしは手持ちの荷物を適当に置くと道具セットをそのへんの空いたワゴンに入れて受け付けに歩いて行った。
「お疲れさまでーす」
「ああ、須藤お疲れ」
しれっとしたこの方はあたしが新人時代によく面倒を見てもらった先輩。あたしも大して身長は大きい方じゃないけどさらに小さくて、たぶん150センチないと思われる小柄な女性。でも、はっきり言って態度はデカイ。
「北澤さーん!これカルテ書いてないですよー!いつも終わったらすぐ書いてくださいって言ってるじゃないですかー!」
実は、市村さんは北澤さんよりは3つ後輩なのだ。それがこの口ぶり。言い方はキツイが、でも本当は根は優しいのだ。
「あ、ごめん。忘れてた」
「全く、ちゃんとやってくださいよ!?片付けるのはあたしなんですから!」
はは……。また怒られてる。
市村さん。北澤さんに言ったってムダだって。すぐ忘れるんだから。
北澤さんは辟易しながらも苦笑してカルテを書く。
「あ、4時になったからあたし帰るね。須藤あとよろしく」
市村さんは結婚してから旦那さんのためなのか早く帰るようになった。それであたしが来るときもあるのだが、最近は専らあたしよりも下の後輩が来ることが多くなった。
「あ、そうですね。お疲れさまです」
あたしは時計を見てからにっこり笑った。
「あ、須藤ちょっとこっちおいで」
「なんですかぁ?」
なにも市村さんに怒られてることしてないと思うけど……。なにかヤボ用でも頼まれるのかな。
あたしは市村さんの後ろからついていくと、バックルームで話をされた。
「お前さあ、ちょっと遊び過ぎなんじゃないの?」

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