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優しいキスをして

第1章 出来心

……そうきたかぁ。
「あー…………誰かになんか聞きました?」
「まあね。なんか夜にいろんな男と遊び歩いてるんだって?」
「……んー、まあそうですねー」
「いろんなヤツとヤってんの?」
「まあ、そうゆーときもありますかねえ?」
あたしは惚けて曖昧に答えるが、市村さんはそれがどうやら気に入らないらしい。
「もう!なにやってんだよ!あんたはそうゆーことしないと思ってたのにさー」
「いやぁ、……だめですか?」
「あんたのことだからあたしからそんな偉そうなことは言えないけど、病気でも移されたらどうすんの?あとで後悔するだけでしょ!?」
まあ、なったらなったでしょうがないしなあ……。
「……そうですねー」
「もう!しっかりしてよ!」
「……はーい」
あたしはとりあえず反省したふりをしといた。
「じゃあね、あたし帰るから。あと頼んだよ?」
「はーい……」
裏口のドアは閉まり、市村さんはやっと帰っていった。
はあ…………。
あの程度のお叱りでよかった……。長いんだよな、市村さん話し出すと。
あたしはバックルームから一度顔だけ出して外を伺った。
まー、すぐにはお客は来なそうだなぁ。
一服しながら今のうちに残りはメールしとくか。
あたしはあと二人に今日の断りの連絡をしていなかったことを思い出し、携帯を出した。
すでに出しておいた煙草に火をつける。
一服すると、北澤さんの歩く音が近づいてきた。
どうやらこっちに来るらしい。
「また携帯いじって、今日も誰かと会うの?」
やっぱりきたか。
北澤さんはさも面白いことを聞くかのようにあたしに話しかけてきた。
「…あー……会いますよ。今日は刺青の旦那」
あたしは携帯を見ながら真顔で答えた。
「お盛んだねえ。若いってすごいよな」
北澤さんがケラケラ笑いながら言った。
最近、全くと言っていいほど北澤さんに対して緊張することもなくなっていた。だってエッチはどう見たって淡白そうだし、全然女の子に興味なしって感じだし。相変わらずカッコいいけど。

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