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優しいキスをして

第2章 深まる傷。そして暴走

あたしは止まらない涙に、思わず両手で顔を押さえた。
栄太はあたしの顔にかかる髪をかき揚げ、頭を撫でてくれた。
「美優には悪いけど、そいつも馬鹿な男だな?
美優は、なんにも変わってないのに。俺に初めて抱かれる前と、全然変わってないのに……。」
あたしの目にまた大粒の涙が膨れ上がった。
「純粋な女の子のままなのにな。なんでわかんないんだ……」
あたしは嗚咽を上げ、泣き叫んでいた。
栄太はあたしが泣き疲れて寝るまで、頭を優しく撫でてくれた。


明け方、あたしは一度目を醒ました。
栄太は横で寝ている。
寝ている栄太はまだ少年のような顔をしている。あたしを抱いている時とは別人のよう。ごめんね、栄太。いつも頼っちゃって。
あたしはシーツだけ体に巻いてベッドの近くのソファに座った。バックから携帯と煙草を出して、煙草に火をつけた。
百夜から来たメールをもう一度読む。
……あたしはなんて馬鹿なんだろう。
たった一人の男が忘れられないなんて。
忘れるなんて、簡単なことじゃないか。
一体何に囚われているんだろう。
百夜とは、たったの3ヵ月付き合っただけだった。
それでも、とても大切にしてくれたし、思ってくれていたと思う。あたしは好きで好きでたまらなくて、いつも頭の中は百夜でいっぱいだった。
まだあの頃、20歳になってもあたしは処女で、純粋過ぎた。
百夜は、処女のあたしを大事にしたいからと、いつもキスしかしてくれなかった。でも、大事だからこそきれいな想い出になるような場所でと語ってくれた。あたしは百夜だったらそんな頓着しなかったけど、せっかくそう言ってくれたことを信じて、ずっと待ってた。
まさか、その前に別れを切り出されるとは思ってもみなかったけど。
百夜は、『お前とはもう付き合えない。勝手なこと言ってごめん。俺が悪いんだ』と、それしか言わなかった。あたしがいくら理由を聞いても教えてくれなかった。
あたしは百夜に何かされた覚えはないし、何の心当たりもなかった。あたしが悪いならどこが悪いのか言ってとも言った。百夜は、俺が悪いんだと言うばかりで何も語ってくれない。あたしは認められなくて、何度も連絡した。でも百夜は、それから電話にも出てくれなくてメールもなくて、それっきりになってしまった。

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