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優しいキスをして

第2章 深まる傷。そして暴走

「だって…………っ、まだ好きなんだもん」
あたしはしゅん、と小さくなってしまう。
栄太は呆れたように小さくため息をついた。
「美優ちゃん、ホントに優しいんだね。でも、泣いてても彼氏のことは一生忘れられないよ?新しい彼氏、作ればいいじゃん」
「まだ、そんな気になれないよ」
「うーん………………今は、傷の修復が先かな。やりたいことを好きなだけすればいいよ」
「そんなのない」
「美優ちゃんはさ、純粋なんだよ。純粋過ぎて周りが見えてないだけ。だから、美優ちゃんも色んな人と付き合ってみなよ?男って生き物がどういうものかわかるよ」
「わかってる。あたしは男を知らない。知らなすぎたのに恋する方が間違ってた」
「そうは言わないけど、もうちょっと気楽に遊んでみなよ」
「うん…………」
栄太は頭の後で腕を組んだ。
「あーあ。こんな純粋でいい子、なんで元カレくんはフッちゃったのかねえ?理解できん!俺が彼女にしたいくらいだわ」
そう言った栄太を見て、あたしは口走っていた。
「………ねえ、よかったら、もらってくれない?」
「えっ?」
「……あたしの処女」
栄太は一瞬固まった。そして少し頬を染めて困った顔をした。
どうしたんだろ、あたし。会ったばかりのこの人にこんなこと言うなんて。
困るのなんて、目に見えてるじゃない。
「いやあ、俺は……、そんなつもりじゃ……」
この年で処女なんて勘弁だよね。
「……そっか、ごめんね。変なこと言って。あんたいいやつだね」
あたしは立ち上がった。
「じゃ、あたし帰るね。話し聞いてくれてありがとっ」
「美優ちゃん!」
背中越しに首だけ振り向いた。
「なに?」
「今度の休み、いつ?」
「あさってだけど」
あたしは栄太の方に体ごと向けた。
「じゃあ、明日、夜10時ごろにここで待ってるよ」
「え?」
「明日、もらってあげる」
思ってもみなかった。
栄太は厭らしさの欠片もなく、ニカッと笑った。あたしも笑った。
「ありがと、栄太。じゃあ明日ね」
あたしと栄太の出会いはこんな感じだった。

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