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優しいキスをして

第1章 出来心

ここのところ北澤さんはあるときを境に前に比べて髪を短く切り、伸びても前よりはだいぶ短いスパンで髪を切っているため、髪は短く、モテ路線。ってゆーか前よりあたしの好みになってるだけなんだけど。
でも、全く女の匂いがしない。どうやら自分のことより未だに他人の色恋の噂の方が楽しいようだ。
好奇の目はあたしに対しても同じみたい。
あたしは口元を片方だけ引き上げて笑った。
「そんなこと言って、北澤さんだって昔は結構女遊びしてたらしいじゃないですか?あたし知ってるよ?」
「してないよー♪」
「へーえ…。朝遅刻してきたと思ったらデコルテに無数のキスマークつけて出勤してきた方は誰でしょうねぇ…」
「っクス。それ、俺じゃないよ。石井くんでしょ?」
どうやら笑って誤魔化す気らしい。
「いやいや、情報源は確かなんで。北澤さんでしょ?」
これはおととい本店で噂好きの大沢さんに聞いたから間違いない。
「それ、誰に聞いたの?大沢?田橋?」
北澤さんももちろんあの二人が噂好きなのは心得ている。あたしに自分の昔のことを話すのはあの二人しかいない、と勘づいたらしい。
「違いますよぉ。誰でしょうねぇ~。」
あたしはちょっと悔しくてわざと不敵な笑みを浮かべて言った。
すると北澤さんはえ?っといった感じで少し動揺していた。
「違うの?誰?」
「教えませーん♪」
そう言ってあたしはメールを送り終わった携帯を置き、受付の方に歩いていくとちょうどお客が店に向かって歩いてくるのが見えた。
「いらっしゃいませー」

それからぞろぞろとお客が数人来店し、それぞれ自分の客に付きっきりになった。
店内の最後の一人のストレートパーマのお客のカットを北澤さんに任せるとあたしは店の締めの作業に取りかかった。使用済みのタオルをかき集めて洗濯機に放り込み、売り上げを計算して可能なところまで片付けた。自分の道具をバックルームに持って行き、あとはお客が帰らないと出来ないところまで仕上げるとちょうど仕上げが終わり、お客が満足そうにイスから立ち上がった。会計が終わり、客を見送ってから時計を見ると営業時間をとっくに過ぎていた。
北澤さんはそのまま外のシャッターを締めに行き、あたしは最後の締めに取りかかる。

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