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優しいキスをして

第2章 深まる傷。そして暴走

「そう……。ならいいけど。たまにはまた牛丼食べいこうね?」
「そうですね」
そう言えば、前はあんなにしょっちゅう行ってたのに、最近田橋さんと牛丼行かなくなったなぁ。最近本店に顔出さないから、心配してくれたんだ……。
あたしはもう一度笑った。
田橋さんは少しほっとしたような顔でフロアに戻って行った。
「悲しげ、か……」
最近、百夜のこと、とくに考えちゃうからかな。百夜、あたしどうしたらいいんだろう…………。
はあ……。
馬鹿だな、あたしは。
あたしは深くため息をついた。
「さて、行きますかー」
あたしは立ち上がってテーブルの上を片づけると、階段を登って行った。道具セットを持つと竹井さんにあいさつし、本店を出る。
30分ほどで8番店に着いた。
あたしはいつも通り裏口に回った。
早めに出されたってことはこっちも忙しいってことかな……。
小さくため息をつき、裏口のドアを開けようとすると、急に視界がぼやけた。
あれ……っ。
目の前の景色が上下逆さにぐるっとゆっくり回って見えたと思うと気持ち悪さを感じ、その場にうずくまった。少しするとそれがめまいだと気づいた。
疲れかな…………。
じーっとしてるとすぐにめまいは収まり、とりあえずドアを開け、入った。
お店に入ったと同時に気分もなんとなく引き締まり、大丈夫そうだ。
「お疲れさまでーす」
あたしはバックルームを出ながら声をかけるとすぐに市村さんが話しかけてきた。
「おーお疲れさま。カラーの人、流したらまだカット残ってるからシャンプーしてマッサージしたらそのままカット入って」
「わかりました」
返事をしてからフロアを見渡すと4人いて、待ち合いに3人見えた。
あたしはすぐに動いた。
今日はどこ行っても忙しいな……。
市村さんの指示はいつも的確だ。
マッサージをしたあとカットに入り、ブローをして仕上げた。
お客の会計をすると、先程市村さんがセットしておいた次のカットに入る。
市村さんがどんどん回してやっと落ち着いたのは4時ごろ。その間にも何人か来店があり、待ちのお客はいたがとりあえず2人で回せる感じだった。市村さんはほとんどしゃべる間もなく時間で上がっていった。
あたしはカラーを塗り終えると次のお客に入った。北澤さんはメンズカットが終わったら次のお客に入れるだろう…………。

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