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優しいキスをして

第4章 躯で躯を結ぶ

「……うん。……好き。好きすぎて、好きなまま勝手に放り出されたから、忘れたくても忘れられない。……思いが、消えないの……っ」
あたしはいつのまにか気持ちのままに正直にしゃべっていた。思いが吹き出して、涙がまた滲んだ。
「……つらかったね」
「…………!」
言われた言葉にびっくりして、北澤さんを見た。とても、優しさの溢れる穏やかな目で微笑んでいた。
「でも、そんなに苦しまなくていい。無理に忘れなくていいんだよ」
「え!?」
そんなこと言ってくれるなんて思ってもみなかった。
北澤さんは、あたしの手を取ると両手で優しく包み込んだ。
「忘れられないものを無理に忘れようとするから苦しむんだ。余計に忘れられなくなる。好きならずっと好きでいればいい。昔の男よりも、いつかもっと好きな人ができれば、自然に思い出にできるから。だから、今は自棄になるな」
「あたし、自棄になんて……」
「なってるでしょ?自分は男を忘れるために誰にでも抱かれる淫乱だから、汚いからって思ってるでしょ?」
「……それは、」
あたしは思っていたことをそのまま言われて、言葉がなかった。北澤さんの顔をまともに見られなかった。
北澤さんは、柔らかく笑いながら小さく息を漏らした。
「見た目よりもずっと純粋なんだな。純粋すぎて周りが見えなくなってる」
…………あたしが、純粋?
あたしは皮肉っぽく笑った。
「……笑わせないでよ。純粋だったらあんなことしないよ!?」
「純粋じゃなかったらすぐに新しい彼氏に夢中になってるよ」
「……っ」
北澤さんは、あたしの顔を真っ正面から見つめて言った。その顔には嘘も誤魔化しもない、優しく微笑んであたしを見つめていた。
「純粋だったが故に、したことなんだよ」
「そんなことない。あたしは、あたしは……!」
あたしは顔を両手で覆った。今までしてきたことを責められないことなんてないと思っていたのに、北澤さんは優しい言葉で慰めてくれた。目から涙が止めどなく溢れてた。
「やってしまったことは消えない。だから全部受け入れて、振り返るな。そうすれば楽になるし、過去にできる」

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