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優しいキスをして

第4章 躯で躯を結ぶ

あたしは自分の顔から手を離した。強く閉じていた目をゆっくり開けると、頬に涙が一筋流れていった。
「……過去に、できる、の?」
「そうだよ」
北澤さんは、優しく抱き締めてくれた。
あたしの頭と背中を両手のひらで押さえて、包み込むように。
……あたしでも、過去を断ち切ることができるのかな。…………なんで、こんなに優しくしてくれるの?
北澤さんに抱き締められて、優しい言葉で包まれて、あたしは心から楽になれた気がした。北澤さんの胸の中はとても、温かくて、居心地がよかった。
あたしが軽く胸を押し返すと、北澤さんもあたしから体を離した。
「北澤さん……。ありがと。あたし、大丈夫だから。あたし、これから抱かれに行ったりしないから、…………もう、帰ろう?」
あたしが顔を上げてニッコリ笑うと、北澤さんはまだ心配しているような、せつなげな目をした。
「…………。……1つ、聞いてもいい?」
「なに?」
あたしは立ち上がって今日来ていた服を拾い上げた。
「自分で聞くのもなんだけど、……俺のこと、……昔、好きだった?」
北澤さんは真剣な表情であたしを見上げた。
あたしは照れ隠しで笑った。
「一応、気づいてた?北澤さんは、あたしがまだなーんも知らない乙女なときに好きだった人だよ。だから、あたしは北澤さんとはそーゆー関係になりたくないの。今のあたしなんかじゃ、その時の気持ちまで汚れる」
「……」
「じゃ、あたし着替えて来るね」
あたしが服を持って脱衣場に向かおうとすると、いつの間にか後ろにいた北澤さんに手首を掴まれた。
「……だったら俺がその時に戻してあげる……。戻ってよ」
北澤さんはせつなげ顔で言った。
「……えっ」
手首を引っ張られたと思ったら、また、唇を塞がれた。甘くて熱い、優しいキス……。
「もう一度、俺を見てよ……」
唇を離した北澤さんが耳元で熱く呟いた。
「……っ。……えっ?……それってどういう……」
「……こういうこと」
あたしが全部しゃべる間もなく、また唇が重ねられた。
……どういうこと?なんで…………?
角度を変え、一度離れてはまた続く。
ダメ……。あたしなんて、こんなことされる資格ない……。
「……んっ。ダ……メ……っ、北澤さ……っ!」
しゃべって口を開いた隙に北澤さんの舌があたしの口に侵入し、あたしの舌を絡めとった。

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