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優しいキスをして

第1章 出来心

あゆみちゃんはあたしの同期で、ライはあたしの今の店舗の2つ上の先輩だ。
「あゆみちゃん?あー、デキてはいないよ。あゆみちゃんは気になるとは言ってたけど」
「そうなの?」
「うん。ライもあゆみちゃん可愛いー♪とは言ってたけど……あゆみちゃん最近会ってないからなぁ。もしかしてもう進展してるかも」
「あいつ元妻にもまだ慰謝料払ってるんでしょ?タフだなぁ」
「ライだからねぇ……」
北澤さんは一人でフフっと楽しげに笑った。
あたしは横目でそれを見て、ちょっと驚かせてやろうと考えた。時計で時間を確認しながら言った。
「北澤さんは、……最近チューした?」
「っ。何いきなり?」
「いや、人の色恋やたら話すから、飢えてるのかなぁって」
「ハハハ。飢えてないよ。もう俺そういうのないし」
「彼女は?今いないの?」
「彼女なんてここ何年もいないよー」
「じゃあ、あたしとしてみる?」
「え?……」
あたしは北澤さんの襟元を掴んで自分の方に引き寄せ、自分から顔を傾け軽くキスをした。
あたしが薄く目を開けながら唇を離すと、北澤さんは少し動揺したのか慌てたようにあたしの両肩を押しやった。
「…っな、に?」
「あたし、北澤さんのことが……」
「え?」
北澤さんの目を見てしばし見つめ、目が合うと、北澤さんは居心地悪そうに目を逸らした。
そこであたしはたまらず、ふっと、とうとう吹き出してしまった。肩を揺らして笑いを堪えるあたしの横で北澤さんは、少し頬を染めた。
「北澤さん、可愛いー♪赤くなっちゃって!」
「……。」
北澤さんは、してやられたって顔。
あたしは手をひらひらしながら、
「冗談だよ!じょーだん♪」
「冗談にしたってやりすぎでしょ……」
「ちょっとチュッと口つけただけじゃん?」
「あのね、そうゆーことは……」
「さて、終わったよー。帰りましょ♪」
あたしは持っていた来店ファイルを棚に戻し、立ち上がるとさっさっとバックルームに入って帰り仕度をする。
「全くもう」
ふてくされながらも北澤さんもバックルームに入ってきた。
北澤さんは、仕度をしながら言った。
「いつもそうやって男ひっかけるの?」
「まあ、そんなとこ」
「気をつけなよ?危ない目にあわないようにね」

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