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優しいキスをして

第4章 躯で躯を結ぶ

「では、これで店長会議を終わりにします。礼!」
「「「お疲れさまでしたー!」」」
会議は10時半すぎにやっと終わりを告げた。
あたしは片方ずつ肩を叩きながら階段を降りていった。
はぁ……、先生の話は遠回しだから疲れる。
階段を降りると在庫を確認したが何も入っていない。
『帰らないで待ってて……』
あたしは北澤さんの言葉を頭の中で反芻した。
でも、ここで待つわけにもなぁ……。
北澤さんは会議が終わると専務に呼ばれて話し込んでいたため、とりあえず周りに怪しまれないように先に出てきた。
北澤さんと、昨日のうちに付き合っていることは会社の人には秘密にしようと二人で決めていた。何かと面倒だし、上の人たちに咎められることがあるかもしれないからだった。あたしたち二人は、かつて会社内で付き合っていた人が子供が出来て会社に報告して、よく思われていなかったことを知っていたからだ。
一応、うちの会社は会社内の男女交際は禁止と言われていたし。
在庫置き場で何人かの人を見送った。少し待っていても北澤さんはなかなか降りてくる気配がなくて、あたしもとりあえず怪しまれないように裏口のドアに手をかけた。
誰かが階段を降りてくる音がしたが、あまりここにいると怪しまれると思ってあたしはそのまま重いドアを開けようとすると、顔の横からいきなり腕が伸びてきた。ドアにかけた手を制止され、左肩を掴まれて後ろを向かされた。
妖しく笑った北澤さんが耳元で囁いた。
「待っててって言ったでしょ?」
あたしは色っぽいその声にドキッとしてしまい、頬が熱くなるのを感じて俯いた。
「……っ。だって、あんまり下で待ってると怪しまれると思って」
あたしは伏し目がちに言った。
北澤さんが屈んで、あたしの左の頬に触れると少し上向かされた。顔がどんどん近づいてくる。
「黙って帰っちゃ、ダメだよ?」
あたしは、ゆっくり目を閉じた。
「うん……」
「おーい、北澤くーん!!」
唇と唇が触れる寸前で北澤さんを呼ぶ声。慌てているのかトントントントンと勢いよく階段を降りてくる音。
二人して顔を見合わせると思わず苦笑しながら階段を見つめた。
ああ、あの声は……。

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