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優しいキスをして

第4章 躯で躯を結ぶ

そう言ってあたしは北澤さんから逃げるように離れると、運転席に向かいつつバッグを漁って鍵を探した。
「美優……」
また、北澤さんが名前で呼んだ。
「えっ?」
あたしが思わず振り返ろうとすると、北澤さんは後ろから包み込むようにあたしを抱き締めた。
「……っ//」
「……好き、だよ」
北澤さんはせつなげな声であたしの耳元で呟いた。言い終わると北澤さんの腕に力が入ってさらにぎゅっと抱き締められた。
あたしはその言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいで何も言えなかった。
北澤さんは掠れた声で言った。
「不安だったの?ごめん……」
いいの、あたしがズルいんだよ……。北澤さん、謝らないでっ。
あたしは前にある北澤さんの腕をやんわり外して正面に向き直った。
「……ううん。言って言われないなんて、悔しいよね……。勝手なこと言ってごめんね……」
あたしが申し訳なく言うのに、北澤さんはあたしが見つめると途端に言いずらそうにして、恥ずかしがっていた。
「いや……、ぶっちゃけ悔しいとゆーより、…………恥ずかしい方が先かな……」
えっ?
「そうなの?」
あたしは目をぱちくりした。
「だって、恥ずかしいじゃん……」
北澤さんは本当に恥ずかしいのか、今度は腕で顔を隠した。
そういえば…………。
思い当たるふしが昨日もあった。好きと言う単語を言う前に、昨日も間があるか、思いきって言っているような感じだった。
あたしは思わずックスと笑ってしまった。
「北澤さんて好きって言えないタイプなんだあ……」
「うるさいな//じゃあ、あとでなっ」
北澤さんは振り向いて自分の車の方に大股で歩いて行った。
あたしは北澤さんの遠ざかっていく後ろ姿を見つめた。
意外…………。
ありゃ、典型的な日本男児だ。
えっちはそうでもないのに。
まああたしは、やたらと『好き』を安売りする男より全然いいけどね。
あたしは思わずックスと笑った。
…………っ。
……だれ?
あたしは誰かに見られている気がして視線を感じた方を振り返った。
見ると、誰もいない。
見えたのは交通量の多い目の前の道路だけ。
なんだが嫌な気配だったけど……。
「……気のせい、かな?」
あたしは車に乗り込んだ。



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