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優しいキスをして

第5章 闇の向こうの光

なんと言われるのだろうか?
どんな罵声を聞かされてもいい…………。
北澤さんに心配も不安もさせたくない。
しばらくして、足音が聞こえなくなった。と思うと同時にマサキは喋り始めた。
『……俺だ。なんで電話に出なかった?なんでメールを返さなかった?』
マサキは冷たく感情のこもらない声だった。
あたしは戸惑いながらも言葉を選んで話そうとした。
「ごめん。マサキ……あのね、あたし…………」
『男ができたのか?』
胸がどくんっとなった。
マサキ、気づいてる……。
あたしはゴクッと唾を飲み込んだ。
「…………そう、だよ」
一瞬、あたしはマサキの歯軋りが聞こえた気がした。
案の定次の言葉は怒りで声が震えていた。
『俺は認めないぞ!お前は俺から離れられるのか?お前のその淫乱な体でまともな恋愛ができるとでも思ってるのか!?』
マサキはさっきまでとは一転して怒りに溢れたとても感情的な声だった。
あたしはマサキの言葉に唇を噛んだ。
あたしもムキになって叫んだ。
「できるよ!あの人は全部受け止めてくれたもん!」
『はっ!どうだか……。そんなの最初だけだ。そのうちお前の淫乱さに呆れて離れていくさ』
あたしはマサキの言葉に一瞬怯んだ。
……そんなことないっ。
「……そんなことない!あの人は、全部知ってる。あたしのことを、……、本当は純粋なんだって言ってくれた!あの人は他の男とは違う!」
あの人は違う…………。
あたしは北澤さんが言ってくれたあの夜の言葉を思い出していた。
あの時の光景を。
『…………美優。その男の口車に乗るな。お前は一時的に夢中になってるだけだ』
「……!」
違うよ……。そんなんじゃない……。
マサキは黙っているあたしに急に優しい声になって話しかけた。
『なあ?いい子だから俺の元に戻ってこいよ。俺の女になれよ』
……北澤さんは他の男とは違う……。
あたしを見てくれている。
あたしは、……、あの人なら…………っ。
「…………あの人は、……ってくれた……」
『……?』
「あの人は好きな人を無理に忘れることはないって言ってくれた!好きならずっと覚えていればいいって!そのうち好きになってくれればいい、絶対に好きにさせるって!」
『……っ』
「あの人はあんたとは違う!忘れろなんて言わないでずっと見守ってくれる。あたしはあの人となら百夜のことを思い出にできる……!」

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