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優しいキスをして

第5章 闇の向こうの光

あたしは百夜と別れたあと、北澤さんの待つ店まで急いだ。
あたしは店の駐車場に車を停めると小走りで店まで走った。
……あたし、気づいたよ。
少し息を切らせながらも勢いよく裏口を開けて入ると、待ち合いのイスに北澤さんの背中が見えた。
北澤さんはあたしにすぐに気づいて立ち上がるとこちらへ歩いてきた。
心配そうな顔で言った。
「おかえり。何もされ…………」
あたしは勢いよく北澤さんに抱きついた。
あたし……とっくに過去にできてたよ。
だって今は、こんなにもあなたが愛おしい……。
北澤さんは優しく抱き締め返してきた。
「……大丈夫だった?何も、されなかった?」
「……うん、大丈夫」
あたしは北澤さんの長い腕で包まれて愛しさを募らせ、つい北澤さんの背中に回した自分の手に力が入った。
「……もう、終わったの?」
突然そんなことをしたあたしを心配したのか、北澤さんは心配そうな声で言った。
あたしは顔を上げて笑って見せた。
「全部終わったよ。あたし……」
「お前、この傷……!」
そう言った北澤さんは目を見開いてびっくりしていた。
「傷?……あっ」
あたしは杏里さんにやられた傷のことをすっかり忘れていた。血はとっくに止まっていたがまだ切られたところがぱっくり開き、回りは赤みが出ていた。
北澤さんが傷を見つめてやるせなさそうに優しくあたしの傷の頬に触れた。
「……やっぱり、一人で行かせるんじゃなかった。怪我してるじゃん……。ちゃんと言えって」
また……心配されちゃった。
あたしは話すと長くなるので笑って誤魔化した。
「これは違うの。色々わけあってね」
「……そいつのこと、庇うの?」
少しの間のあと、北澤さんはせつなげに言った。瞳の奥には嫉妬の焔が見え隠れしていた。
違うの……っ。
北澤さん、誤解してる……。
あたしは俯いた。
「そんなんじゃない。でも、行かなかったらあたし、自分の気持ちにまだ気づいてなかったかも…………」
「……どうゆーこと?」
北澤さんは訝しげにあたしの顔を覗き込んだ。
あたしは北澤さんの目を見つめて言った。
「あたし、好きだよ。北澤さんのこと、すごく好き…………」
北澤さんは最初、面食らった顔をしたけどすぐに顔を赤くしたと思うと自分の顔を隠すようにあたしを抱き寄せた。
「そんなこと言ったって、ごまかされないよ…………っ」

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