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優しいキスをして

第6章 秘密の恋人たち

大沢さんは呆れ顔だ。
「ばーか。色気ぷんぷんさせやがってよ」
「そんなにあたし、言うほど色気ないと思いますけど……」
「……あーやだやだっ!自覚のない色気女!あの北澤さんを夢中にさせるだけのことあるよな……」
「大沢さん!しーっ!個人名出さないでよ!」
「はいはい。……んなこと言ってたら噂の彼氏登場」
「えっ?」
後ろを振り向くと、ともくんが少し怖い顔をして入ってきたところだった。
「大沢っ。お前がそうゆーふうに軽口叩くから噂がすぐ広まるんだよっ」
「へーい、とぅいまてーん」
大沢さんはふざけてまるで反省してなさそう……。
「全く……このばかが」
ともくんは珍しく悪態をつくと、あたしの方にまっすぐ歩いてきた。
……あれ?そういや、ともくんから電話あったっけ?
あたしは慌てて着信履歴を確認しようと携帯を取る。
「ごめん、もしかして電話した?ここ電波悪いのかな?」
するとともくんは逆に申し訳なさそうに後頭部に手をやった。
「いや、充電切れちゃってさ。できなかった」
なぁーんだ……良かった。
「そっか、じゃあすぐ片づけるから。待ってて?」
あたしが片づけようとするとともくんはあたしの持ったウィッグを掴んだ。
あたしはえ?とともくんを見上げる。
「いや、折角だからとりあえず切りのいいとこまでやんなよ。俺仕上げ見てやるから、ね?」
ともくんは優しく微笑んで言った。
あたしは少し考えるとともくんを自然と上目遣いで見て言った。
「そう?……じゃあたまには見てもらおうかな」
「うん」
ともくんは微笑むとすぐ近くのイスに座った。視線を感じながらもあたしははさみを動かし始めるが、すぐに背中で大沢さんのため息を感じた。
「…………。はあ……、やってらんねえわ。 俺の前で二人してそんなラブラブオーラ出さないでもらえますかっ」
大沢さんは頬杖をついたまま毒づいた。
ともくんは後ろを振り返って言う。
「そんなの出してねえよ。お前の勘違いだ」
「うんうん」
あたしも一緒に頷く。
大沢さんはまた大きなため息をした。
「俺が噂広めなくてもバレんの時間の問題ですよ……。もうちょっと自然に……、つーか須藤!嬉しそうな顔し過ぎ!」
「えー……普通だけどー。そんなあからさまですか?」

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