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優しいキスをして

第6章 秘密の恋人たち

「ああっ、思いっきりな!」
あたしが振り向くと大沢さんはあたしを指差した。
ともくんは横目で大沢さんを軽く睨んだ気がした。
「お前が意識して見すぎなんだよ。あんまり気にしてジロジロ見んな」
「……北澤さん、重症ですね…………」
「何言ってんだよ。俺はまともだ」
「……もういいです。俺、帰ります」
そう言うと大沢さんが席を立った気配がした。
「お疲れさまでーす」
フロアからバックルームに下がり際に大沢さんが振り返ることなく手をひらひらさせて言った。
「じゃあ、ごゆっくりー」
ともくんは小さくため息するとあたしに向き直って静かに見つめた。
少ししてあたしが切り終わるとともくんがカットのレクチャーをしてくれた。
「……うん、いいんじゃない?ここをもうちょっと切ってもいいけど」
「そっか!……じゃあここを……こう、すると……」
「そうそう。……うん、いいんじゃない♪?」
「うん、わかった!ありがとー♪じゃあ、すぐ片づけるね」
「うん」
ともくんは微笑んで満足そうに頷いた。
あたしがテキパキと片づけてコートを着て帰り支度をすると、誰もいないのを確認して、二人して裏口から出た。
二人で駐車場まで歩きながらあたしはともくんを見上げて口を開いた。
「ともくん、今日早かったね?」
「今日も夕方暇だったからな。なんだか知らないけど、やっぱお前が来ないと客来ないんだよね。最近売上げがた落ちだよ」
そう言うとともくんは軽くため息した。
「そうなの?」
「たまには、来てくれない?」
「竹井さんに言ってよー。行きたいのは山々だけどね」
「明日は夜シフト班の集まりだったよな?今月お前らの番でしょ?」
最近は営業中どころか仕事終わりでさえもまともに会えていなかった。それは最近あたしも営業以外の仕事も任されることになったから。自分たちで意識して会う時間を作らないと会えない日が続いていた。
「うん。……最近、なかなか会える時間ないね……」
「そうだな……」
「なんか、寂しいよ……」
あたしが俯いて言うと、ともくんはあたしの肩を抱いて顔を覗き込んだ。
「……なに?今日も俺んち、来る?」
ともくんは少し掠れた声で妖しく囁いた。
最近は会ってもあまりに会える時間が短すぎてあたしがもっと一緒に居たくてともくんの家にお忍びで泊まることがあった。
でも、おとといも泊まったばっかりだし……。

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