しのぶ
第5章 5・真実の影
「さっき、もう一人の首謀者――草野から話聞いた。志信は小山粛清の直前、草野を助け他国に逃がした。そして小山の敵を共に取ろうと約束し、一年かけて一揆の準備した。いいか元康、一年かけて準備してたんだ。コイツは初めから、裏切り者だったんだ!」
「そんなはずない! 草野とやらが嘘を言って――」
反論しようとした元康だが、ふと思い出す。志信と大坂まで二人旅をした道中、盗み見た文を。二通あった文の内、一つは『草野六兵衛』宛であった。
「嘘を、言っているんだよな、しの……?」
元康の心臓が、疑心と不安で押しつぶされそうになる。縋るように訊ねると、志信はまた綺麗な笑顔を見せた。
「私はいつでも、主のため動く影です」
「そう、だよな! 草野と関わっていたのは、反間なんだろう? だって、志信のおかげで一揆はすぐに鎮圧出来たんだ」
「そうですね、私は反間です。いえ、二重どころではありません。小山、草野、毛利、小早川、そして小川、様々な家を渡り歩き欺きました」
「――なぜ、うちの名前を出すんだ。それではまるで、小川家まで欺いたみたいじゃないか」