しのぶ
第5章 5・真実の影
裏切られたのではない、元々志信の心は、元康にはなかったのだ。そう考えると、怒りも悲しみも混ざり合い混沌が胸に渦巻く。それらは元康を侵食し、言葉すら奪った。
「元康……」
力なくうなだれた元康に、ジュストは胸を抉られる。そしてその痛みの矛先は、全ての元凶である志信へと向かった。
「許せない、デウスの代わりに、ジュストが断罪を!」
ジュストは元康を離すと、ジュストと共に荒谷へやってきた護衛と看守を呼びつけ牢を開かせる。そして護衛達が志信の体を押さえつけると、ジュストは刀を抜いた。
「その首、輝サマの土産にしてくれる!」
志信の首は、罪と反比例するように白く艶めかしい。血の華が咲くには、これ以上ない土壌である。ジュストはためらいもなく、そこへ刀を振り下ろした。
「待て!!」
だが、元康がジュストの腕を押さえ、斬首を阻む。ジュストがそれを強引に解くと、元康は志信に抱きついて庇いたてた。
「待て、待ってくれ!!」
「駄目だ! 放っておけば、このデーモンはまた罪を犯す!」
「違うっ!!」
元康は護衛達を払うと、志信の肩へ手を回し、顔を胸にうずめる。