しのぶ
第5章 5・真実の影
斬首まで追い詰めた志信を、結局ジュスト達はなす術なく逃がしてしまう。悔しさに歯を食いしばっても、震える拳の行き場はなかった。
志信は元康を抱き上げたまま、城の外まで連れていく。そして山道までやってくると、ようやく元康を下ろし、くないを収めた。
「俺を、殺さないのか?」
薄々分かってはいたが、元康はそう訊ねてしまう。殺すなら今でなくとも、機会はいくらでもあったのだ。しかしその行動は、裏切り者としては不自然であった。
「家康様は、日の本を血で染めたい訳ではありません。無闇に人を殺すのは、ただの鬼でしょう」
「家康の心を知りたい訳ではない! 俺はお前の本心が知りたいんだ。家康の忍びなら、なぜ俺を救ったんだ!」
元康と向き合った志信は、かつてない程に迷い瞳が揺れている。だが、一つ溜め息を吐くとそれも収まった。
「答えてくれ、しの――」
追及を避けるように、志信は口吸いで元康の唇を塞ぐ。
「んっ……ふ」
絡む舌は以前と変わらず、とろけそうな熱を持っている。丁寧に愛するやり方も、発情を抑えきれず時に強引な愛し方に変わるのも、志信そのものだった。