しのぶ
第5章 5・真実の影
「……最後の、奉公です」
しばらく元康を堪能し、元康が腰砕けになった頃、志信はようやく重い口を開く。
「天下分け目になるであろう今の戦は、東軍が勝ちます。西軍にありながら寝返りを画策しているのは、毛利の内部だけではありません。西軍は、内部から崩壊するでしょう」
「しの……」
「輝元様にもお伝えください。あくまでこの戦、発起人は石田です。毛利は石田の甘言に惑わされ担がれたと伝え、大坂はすぐに明け渡してください。そうすれば、家康様も毛利を悪いようにはしません」
「しかし、それでは輝様の権威は……」
「家を残すためなら、恥をしのんでも動くべきです。確かに大坂を簡単に引き渡せば、輝元様は馬鹿殿と揶揄されるでしょう。しかし意地を張れば、改易はおろか命すら危ういのです」
そう主張する志信の態度に、偽りは感じられない。説得が毛利が生き残るための提案なのか、はたまた家康を有利にするための工作なのかは分からないが、とにかく真剣であった。
「家康様は、かつて世話になった今川を見限り、同盟とはいえ織田に家来のような扱いを受けても真摯に動き、豊臣に勝利する武力がありながらも耐えてきました」