しのぶ
第1章 1・光への生還
絡みつく志信の腕は、忍びの首を息もつけない程がっしりと締め上げる。そして文句を言う間もなく、その首は力任せに折られてしまった。
「――ようやく確信できた。お前は、小早川の間者か」
先程まで媚びて甘い声を上げていたとは思えないくらい、冷え切った低い声。乱れていたにも関わらず、荒れた吐息も上気した肌も、一瞬で色を失っていた。
「手間を掛けさせてくれやがって」
志信が腕の力を緩めると、忍びはそのまま地へ崩れ落ちる。下半身を丸出しにした情けない格好の忍びが、二度と起き上がる事はない。どこの誰が、何のために間者を放ったのか。全てを悟った今、もう敵の命に価値はなかった。
「忍びが忍びの術中に嵌まってどうする。ったく、中で出しやがって、気持ち悪い……」
立ち上がると、忍びが志信を征服した、と思い込んだ醜い白濁が流れ出す。志信はそれを乱暴に掻き出すと、忍びの死体から装束を剥いで身に着けた。
どんな人間でも、生理的欲求を満たした瞬間は油断する。そして手っ取り早く生理的欲求を起こさせるには、性欲を刺激するのが一番だ。昔から忍びが得意とする、凋落の手口である。