しのぶ
第6章 6・遺恨の花
大人であれば身を隠せない獣の穴蔵に、一人の少年は潜んでいた。不吉さを表すように吹く生温い風が、山の木々を揺らす。それに混じり、かすかに聞こえる山賊の声を余さず聞こうと、少年は目を閉じ耳を傾けていた。
「武士らしい集団が……山に」
「首を取れば、金に……」
山賊が企むのは、人目を避けるように夜の山へ逃げ込んだ武士達の殺害。少年――後に志信と名乗る事になる彼はこれだけはっきり聞くと、山賊達の目を引くように音を立てて穴蔵を出た。
「な、なんだ!?」
「子ども? ……なんでぇ、驚かせやがって」
山賊達は早速少年を取り囲み、品定めする。着物は擦り切れ土に汚れ、とても金になる家の子どもではないと見て取れる。しかし、まだ成長の余地がある手足は雪のように白く、瞳には人を惹きつける力があった。
「ほう……身なりは汚いが、寺の生臭坊主が喜びそうだな」
大人になりきらない少年は、坊主へのいいお布施になる。山賊は少年に手招きし、裏のある笑顔を見せた。
「お前、道に迷ったのか? ならばおじさん達が、近くの寺まで送ってやろう。なに、心配はない。坊主は偉いから、きっとお前の力になるぞ」