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しのぶ

第6章 6・遺恨の花

 
「俺は伊賀の忍び、犬丸。お前達の命、頂戴する!」

 彼――犬丸は、まだ元服もしていない少年であったが、既に人とはかけ離れていた。躊躇いなく人を手にかける度胸、反撃を食らい傷付いても涙の一つも見せない根性、山賊達が気付いた時点で、全ては遅かったのだ。彼は、忍びだった。

 数人が骸となって地に伏すと、残党は恐れをなして逃亡を始める。だが犬丸は一人も逃がさず、淡々と山賊を全滅させていく。群れて囲まれたならともかく、散り散りに逃げる敵は子ども相手でも刈り尽くせる。

(これで十二人……後一人)

 悲鳴と共に、空へ舞う血飛沫。最後の一人を倒した時、ちょうど月が闇夜を照らし始めていた。暗く、ろくな道もない山の行軍も、この光なら少しは楽だろう。犬丸は一息つくと、武器を懐にしまった。

 するとほどなくして、具足の擦れる音が混じる足音が聞こえてきた。犬丸はそれを察知すると再び穴蔵に隠れ、様子を窺った。

「……様には参りましたな。まさか、切腹まで考えていたとは」

 近付くのは、厳めしい武士達と商人の集団。朗らかに話しながらも周囲に気を配る彼らは、足を止めると辺りを見回した。
 

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