しのぶ
第6章 6・遺恨の花
途端に静かになる山、犬丸は緊張しながら息を潜める。すると壮年の武士が犬丸の潜む穴蔵目掛け、棒手裏剣を投げた。
「っ!」
手裏剣は穴蔵のちょうど横に刺さる。しかもそれは、手裏剣の半分以上が土に埋まるほど深く突き刺さっていたのだ。気配を隠していた犬丸を一発で見破る眼力、正確さと威力のある手裏剣、犬丸は降伏し、両手を上げて穴蔵から出るしかなかった。
「……童か?」
手裏剣を投げた武士は、相手が子どもだと分かっても一切の気の緩みを見せない。だが彼以外の武士は、犬丸の姿を見るとざわつき声を上げた。
「これは驚いた。半蔵、お前の小さい頃にそっくりじゃないか」
「……はい?」
半蔵と呼ばれた武士は周りの武士にそう言われて、眉をひそめながらも犬丸を見つめる。
「そんなに似ていますか? 私はこのくらいの年頃、もっと逞しい子どもでしたが」
「確かにお前の方が大きかったが、顔は生き写しのようにそっくりだぞ! 童、お主、何者だ」
すると、具足の上から見ても腹が丸いと分かる壮年の武士が、ひょいと前に出て犬丸に訊ねる。すると半蔵と呼ばれた武士は慌てて彼を引き下げ、声を荒げた。