テキストサイズ

しのぶ

第6章 6・遺恨の花

 
「ご自重ください、家康様! この周囲に漂う死臭、この童が原因かも知れないのですぞ!」

 半蔵は家康と呼んだ武士を周りの武士に預けると、犬丸に厳しい目を向ける。

「それで、だ。お主は何者だ」

「私は伊賀の里に暮らす、犬丸という名の忍びです。京の本能寺にて織田信長様が討たれ、家康様が伊賀同心の護衛と共に堺より三河へお戻りになられると聞き、私も力になりたいと思い馳せ参じました」

「身に纏う返り血はなんだ?」

「家康様が通られるこの山に、山賊がいましたので、そのまま進まれては危険と思い、始末いたしました」

「お主が一人で殺したのか?」

「会話の内容から察するに、特に有益な情報を持っているようには思えませんでしたから……一人くらい生け捕りにした方がよろしかったでしょうか」

 淡々と語る犬丸に驚き目を丸くすると、半蔵は後ろを振り向き、商人の格好をした者や木の影に目配せして溜め息を漏らした。

「お前達、このような隠し玉を持っている癖に、俺に報告もないとは。けしからんな」

「出過ぎた真似でしたか? 申し訳ありません」
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ