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しのぶ

第6章 6・遺恨の花

 
 犬丸が頭を下げると、半蔵は首を振り犬丸の肩に手を置く。大きくて傷だらけの手に、今まで表情という表情のなかった犬丸の頬にわずかな朱が走った。

「違う、むしろ逆だ。私が叱ったのは、伊賀の忍び達だ。お前のように優秀な忍びがいるなら、俺にまず知らせるべきだろうとな」

「あの……あなたは、もしかして、伊賀の……」

「うむ、私は服部半蔵正成。伊賀同心を指揮する、徳川の武士だ」

 するとなぜか犬丸の頬は涙に濡れ、半蔵は慌てて手を離す。

「な、なんだどうした!? 私が怖かったのか!?」

 なぜ犬丸が泣いたか分からず半蔵がうろたえていると、家康は腹を抱えて笑い出す。そして犬丸をなだめるように撫でると、穏やかに声を掛けた。

「怯える必要はないぞ。確かに命令もなく大人の後を追うのは無茶だが、犬丸が山賊を始末していなかったら、儂は襲われていたかもしれん。お主は、命の恩人だ! 叱ったりするものか」

「あ、あの……」

「ほら、胸を張れ。そしてこのまま三河まで、儂を護衛してくれないか? なにせ今は危険な時でな、猫の手も借りたいくらいなのだ」
 

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