しのぶ
第6章 6・遺恨の花
だが志信にとっては、幼いとはいえ確かに歩んできた人生そのもの。元康は志信が自分とは違う生き物なのだと、改めて突きつけられたような思いを抱いた。
「元々伊賀忍軍とは契約さえあれば、どの国にも忍びを送る独立した組織です。徳川家は中でも上客でありましたが、中には徳川家が伊賀忍者を自らの家臣扱いするのでは、と危惧している者もいたのです」
「それで、駆け引きを? しかしそれがお前に、どんな関係が……」
「それが大いにあるのです。私は、伊賀忍者の統率者、服部半蔵の血を継いだ子供だったのですから」
「半蔵の……子ども!?」
「一部の伊賀忍軍は里で育ち、影響を強く受けた私を服部家に送り込もうと画策しました。そのために私の母を殺し、私を管理下に置いたのです。しかし、下賎な身分の女に生ませた子など、服部家にとっては邪魔者。伊賀忍軍に力を持たせる事も、徳川家にとっては不都合です」
元康はふと、志信が自らの子種を「遺恨の種」と呼んだ事を思い出す。それはこの権力争いが原因なのだと、詳しく聞かずとも悟った。
「先程、半蔵と話したのはその時だけと言っていたな。つまり、伊賀忍者の企みは失敗したのか」