しのぶ
第6章 6・遺恨の花
「遺恨の種が根付き、花開いてしまったのなら、実を付ける前に刈り取らねばなりません。半蔵様は自らの失態は自らで拭うべきと、私を殺そうと動きました」
「それを助けたのは……家康か」
志信が数々の家を回り、己の命も省みず忠義を捧げた「あの方」。契約に基づき動くだけの伊賀忍者である志信がどうして武士のように家康を慕うのか不思議であったが、話を聞けば納得だった。
「その通り。家康様は『命の恩人を殺してはならない』と私を庇われ、自らの忍びとして私を置いてくださりました。服部家を継ぐ事はもちろん、武士の血を引く事を口外するのも禁じられましたが、私は確かに命を救われたのです」
「そうか。家康は……優しいのだな」
「ええ。あの方の力になれるなら、私に困難は何もありませんでした。服部家の事も、どうでもいいんです。私は家康様の忍びであれば、それでよかった」
志信が漏らす笑みは、家康に対する絶対的な信頼に溢れている。元康が物心もつかない内から、長い時間を掛けてしっかりと築いてきた絆。たかだか一年で全てを手に入れたような気になっていた自分が、元康は恥ずかしかった。