しのぶ
第6章 6・遺恨の花
だが志信は、静かに首を振ると、袈裟の中に隠し持っていた刀を元康に渡す。元康が首を傾げると、志信は頭を下げた。
「罪人を許してはなりません、元康様。私を、斬首してください」
「な、何を言い出すんだ志信! 斬首など俺に出来るはず……そうだ、大体徳川方のお前を無闇に殺しては、輝様に迷惑がかかるだろう!」
「ああ、毛利家の今後についてはご安心ください。家康様は毛利を改易する気など、初めからありませんよ。一度改易を言い渡したのは、取り潰された家への配慮です」
「しかし……」
「それに、もう私は家康様の忍びではありません」
元康は言葉を失い、頭を下げる志信をただ見つめる。視線と沈黙に耐えかねた志信はしばらくして顔を上げると、苦笑いした。
「なんてお顔をされているんですか、殿。あなたが悲しむ道理などないでしょう」
元康は今にも涙をこぼしそうに悲痛な顔をして、志信に震えた声を掛ける。
「だって、なんで……お前が、捨てられたら、帰る場所は」
「捨てられてなどいませんよ。家康様は私の想いを察し、追い出すという形で送り出してくれたのです」