しのぶ
第1章 1・光への生還
「さらに言いますと、もう一つの両川……吉川家も、独自に徳川と繋がっている疑いがあります。こちらは、確証のない話ですが」
「両川が聞いて呆れる! どちらも毛利を支えるはずが、ひどい有り様だな」
元康はまた爪を噛もうとするが、志信に手を取られたままであったせいで止められてしまう。苛立ちを向ける方向を無くした元康は、苦い顔で溜め息を漏らした。
「……元康様、無礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか」
すると志信は元康の手を離し、かしこまって口を開く。
「なんだ、言ってみろ」
「私は小川家に仕えて、まだ一年です。小川家と毛利家の縁も深く知らないまま申し上げるのは分不相応である事は承知ですが……おそらく、今に始まるこの戦、勝利するのは東軍です」
「どうしてそう言い切れる? 確かにこの戦、発起人は石田三成、徳川に比べたら格下の弱者だ。だが総大将を引き受けたのは、中国地方の主、輝様だ。輝様が徳川に劣るものなど、何もない」
「仰る通り、輝元様は徳川とも渡り合えるお方です。しかし、小早川に吉川まで不安定となれば、話は別でしょう」