しのぶ
第1章 1・光への生還
発起人である石田三成は、単独で強兵を抱えている訳ではない。戦の要となるのは、間違いなく毛利一門の軍である。そしてこれまでその軍とは、吉川と小早川、二つの家に支えられて成り立っていたのだ。
「毛利家に一番の利益をもたらすのは、もちろん西軍の勝利です。しかしそれが怪しいのであれば、西軍で活躍しては、かえって毛利家へ害をもたらすのではないでしょうか」
勝てば官軍、しかし負ければ、総大将である毛利が無事に済むはずがない。東軍に食い込み仇をなす程、負けた後毛利は憎まれてしまう。お家の改易、そして処刑。想像は容易かった。
「此度の戦い、身内を両軍に分けて二股作戦を取る者もいます。毛利家との絆が揺るがないとお考えであれば、東軍につくのも一つの手かと」
東軍が勝てば小川家が毛利家の人間を助命し、西軍が勝てば毛利家が小川家の人間を助命する。二股作戦が取れるのは、勢力が別れても必ず片方を庇えると信頼できる間柄の人間だけである。志信が提案を持ち掛けてきたのは、毛利と小川の信頼を深く見たからこそ。元康も、それが分からない程馬鹿ではない。