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しのぶ

第1章 1・光への生還

 
 さらに、志信が小川家に仕え始めたのは、僅か一年前である。常識で考えれば、そんな立場で小川家の動向に口を挟む忍びなど有り得なかった。

「感謝など、とんでもない」

「いや、俺はお前のそういう所が好きなんだ。媚びを売らず、だが主を軽んじている訳でもなく、為になると思った事を隠さず打ち明ける。しのぶの心は真っ直ぐで、綺麗だ」

 元康は掴んだ志信の手を引き寄せ、抱擁する。だが距離を縮めた事で、元康は志信が妙な匂いを纏わせていると気づいてしまった。

「……お前、小早川の間者に何かされたか?」

 血の匂いは、忍びである以上不思議ではない。だがそれに混じって、雄の匂いが鼻を突くのだ。まるで、志信は自分の物だと主張するように。すると志信は元康から身を離すと、淡々と語った。

「失礼しました。体は拭いてきたのですが、報告が先と思うと少々雑になってしまったようです。しかし、お気になさらず。間者は確かに始末致しましたから」

「そんな事は聞いていない! しのぶ、お前間者に何をされたんだ!」

「忍びの仕事など、聞いても得にはならないと思いますが」
 

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