しのぶ
第1章 1・光への生還
「輝様への返礼は何がいいだろうな。小山ならどうする?」
ふと振り向くと、同じく共に付いて来たはずの鷹匠が見当たらない。元康が首を傾げると、小山は年を感じさせる顔をますます皺だらけにして答えた。
「いけませんな、殿。はぐれた事にも気付かず浮かれるなど」
「はぐれた? 気付いていたなら、教えてくれればいいのに」
意地の悪い小山に、元康は口を尖らす。だが小山は飄々と笑うと、足取りも軽く歩き出した。
「広い視野を持てと、じいは常日頃から申しておりましょう。なに、問題はありませんよ」
元康を追い越すと、小山は足を止め振り向く。そして小山が懐に手を入れた、その瞬間だった。
「!?」
近くの木から、大きな音を立てて何かが落ちる。鳥や兎とは違う大きな影に、元康も小山も身構えた。
「……人間?」
熊かと思ったが、その影は動く気配がない。元康が恐る恐る覗き込むと、そこには人が倒れていた。
ところどころ破け、泥にまみれた黒装束。しかし汚れを吹き飛ばすくらい、その人間は端正だった。おそらく、風体からすると彼は忍者。しかし彼は目を閉じ、呑気に寝息を立てていた。