しのぶ
第2章 2・手紙
「こんな文を送ったら、根回しどころか裏切りの止めになりかねん。少し頭を冷やさないと駄目だな」
「紙が勿体ないですね。それほど小早川が憎いですか」
「当たり前だ! 俺から志信を奪おうなど、仏が許しても俺は許せん」
「それって、まさか……」
元康が何に怒りを覚え、こんなものを書いたのか。裏を覗けば、罵倒も微笑ましくなり、志信は頭巾に隠した口を緩ませる。それを察した元康は志信の頭巾を取り払うと、じとりと志信を睨んだ。
「しのぶがずっと俺の側にいれば、こんな文を書く必要もなかったんだ」
「その呼び名で呼ぶのもいけませんと、何度も申し上げたでしょう」
「しのが悪い」
志信は怨念のこもった文を巻き取って回収すると、拗ねてそっぽを向いてしまった元康の前に跪く。
「これはひねくれた私宛の恋文として、有り難く拝領致します。それとそろそろ、ご報告を」
「そんな文拝領するな、すぐに燃やせよ」
「分かっておりますとも」
志信は懐に文をしまうと、緩んだ口を一文字に結び直す。そして懐から、先程とは違う文を取り出した。