しのぶ
第2章 2・手紙
「毛利家より、密書が届きました」
元康がそれを受け取り広げると、これまた部屋の隅まで届く程長い文。志信は一度公に切り替えた心を、つい崩してしまう。
「……毛利家に関わる人間は、皆文が長いのでしょうか」
「吉川はそうでもないぞ。あそこの家は思い切り良くさっぱりしている」
文に目を通しながら答える元康に、志信は一礼する。そして部屋から出ようと立ち上がると、元康は顔を上げた。
「待て、志信」
「いかがなされました?」
「志信がそばにいないから、あんな文を書いてしまった、と言っただろう?」
元康が勝ち気な笑みを見せると、志信は溜め息を漏らす。
「つまり、戻るなと?」
「いいじゃないか、たまには。それにほら、密書は外に漏れたらまずい。これを広げている間は、警備してもらわないと」
「警備は、部屋の外でも出来るでしょう」
「でも中でも出来るだろう? 一生離れるなと言っている訳じゃないんだ」
「まったく、わがままな殿ですね」
志信は座り直すと、頭を抱えもう一つ溜め息を吐いた。だが、本気で呆れた表情ではない。元康はその顔を確認すると、再び密書に目を向けた。