しのぶ
第2章 2・手紙
街と街を繋ぐ、木漏れ日降り注ぐ森の中。腕まくりした志信が、格好にそぐわない重い拳を浮浪者に食らわせる。
「薄汚い野盗が、小賢しい」
敵を見下す瞳には、隠し切れない不機嫌が積もっている。それを誤魔化すように、志信のまばたきは早くなっていた。それはこの旅で元康が気付いた、志信の癖である。機嫌が悪かったり気が重いと、僅かにまばたきが多くなるのだ。
志信の美しさから無理矢理手込めにしようとする者、追い剥ぎついでに身売りさせようと企む者、元康の印象が木偶であっても、旅は幾度となく危機を迎えていた。危機と言っても、志信には指一本で弾き返せる困難だが。とはいえ、積もり積もって志信が不機嫌になるのも致し方がない話だった。
「そうかりかりするな、志信」
元康は少しでも気を逸らしてやろうと、志信の顔に両手を伸ばし目を塞ぐ。すると志信は飛び上がる勢いでたじろぎ、身を引いた。
「なっ、何を……元康様!」
「しの?」
志信は胸を押さえ、深呼吸して息を整える。顔も赤く、動揺しているのは明らかだった。
「なんでそんなに驚いているんだ? らしくないな」